天国旅行

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心中をテーマにした短編集。テーマが死、しかも心中なんだから暗い話ばかりかと思ってたらそんなことはなかったです。もちろん暗いじっとりした話もあったけど、ラストに光がさすような話もあって全体を読み終わってみるとどんよりってほどではありませんでした。心中という大きな枠組みはあれども、それぞれのお話ごとにテーマが違っていたおかげでバリエーションもあって面白かったです。
先輩の自殺を期に接近する先輩の元恋人と先輩を陰ながら思いこがれていた彼女のお話「炎」は、あの年代特有のなんともいえばいいやらしさにぞっとしました。終盤ミステリさながらに物事が逆転していく様が面白かったのです。こういう心の細かいひだを描いてくのもしをんさんはうまいですよね。
ラストを飾る「SINK」は一家心中の生き残りとして生きてきた男の話。両親が一体どんなつもりで心中を行ったのかは分からない。沈んでいく車の中、行われた行為がもつ本当の意味を彼は生涯知ることは出来ない。だけど、もしかしたら彼が思っているのとは違った意味があるのかもしれない。過去の呪縛から逃れるのは非常に難しいことです。ましてや一家心中の生き残りという重い過去からなんて。全七作中最も重い話を最後にもってきてあるんだけど、重苦しいだけの話かといったらそんなこともなく短編集の締めにふさわしいお話が配置してあると感じました。