もういちど生まれる

もういちど生まれる

もういちど生まれる

20歳を前にした若者たちの今を切り取って描いた連作短編集。第147回直木賞候補作にもなった作品。直木賞受賞には至らなかったけれど、私は好きなタイプの本です。朝井リョウは写真をとるみたいに登場人物の一瞬一瞬を切り取って文章に写し取るのがうまい作家なのだなあと改めて感じました。瞬きしてる間に過ぎ去ってしまう瞬間をちゃんと描写しきる力があります。
この小説は5編の短編から成り立っています。うち3編は女性視点で2編は男性視点。作者は男性なのだから、男性視点の話こそが本領発揮なのかと思いきや、私は女性視点の話のほうのがしっくりきました。何なのだろうか、この描写力というか憑依力。そう、まるで20歳を前に不安な気持ちを抱えている女性そのものなのです。ズレからくるいやーな感じがないのです。いや、実際大学生のお嬢さんが読まれたら違和感を覚えるかもしれません。でも、青春時代の思い出を肴に酒が飲めてしまうお年頃の私には非常にぐっとくるのです。今後もとっても楽しみな作家さんの一人。