さようなら、コタツ

さようなら、コタツ (集英社文庫)

さようなら、コタツ (集英社文庫)

部屋の中で起こった様々なことを描いた短編を7つ収録した短編集。

ようするに、そうして、若い髪のある男を見てみると、ああこの人もどのみち禿げる、そうすれば山田伸夫と大差ない印象になる、つまり、あの山田伸夫だって十五年くらい前まで遡れば、多少肥満傾向にはあるにしても、普通に上背のある青年だったのではないかと考えることができる。由紀子だって十五年前は、もう少しふっくらしていたし、こんなに顔にシミが出てはいなかった。化粧はいくらかうまくなったように思うが、肌ツヤの衰えはいなめない。そういうことなのだ。年齢が上がってから誰かと出会うということは。

そう、そうなんだよねーと。今でもそうなんだけど、たぶんあと10年ぐらいたつと本当に身にしみてそう感じると思います。これは、表題作「さようなら、コタツ」の中からの引用です。主人公由紀子は十五年愛用してきたコタツを捨て、新しく引っ越した部屋で恋人が訪れるのを今か今かと待っている、しかもそれは自分の誕生日で彼女は自ら料理を作って待っているのだという話です。まったりした時間が流れる部屋と主人公が私は好きです。

子どもは大人とは違う時間の流れの中を生きている。アパートの住人の誰一人として、彼女がだんだん変化してくる自分の体を持て余す年齢に差し掛かっていることになど気づかなかったし、そんな年齢の谷口マナが抱えている漠然とした不安を知らなかった。
子どもにとって世界とはそうしたものであり、その不安定な世界の存在が大人に理解されることは、ほとんどない。

母親が恋人を連れてくる日にお隣さんに逃げ込む小学生の話「ダイエットクイーン」は、読み終わった後胸がざわっとしました。基本的に中島京子って読後感がさわやかなんだけど、これはすごくざらざらして不安になります。
同じくざらっとしたのは、家をインテリアの実例集用に撮影許可を出した妻に出て行かれたイラストレーター男の「インタビュー」。過去と現在が交差することによって生まれる不安定さが、主人公の悲しさを増してるように思います。
部屋の数だけ人生があるという言葉通りの短編集。面白かったです。