きつねのはなし

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

しっとりというかじっとりしたややホラーチックな短編集。『走れメロス』を読んだ後だけにあれ?っていう感じはあるけれど、こういう雰囲気もありだとは思います。4つの短編の中で一番好きなのが「果実の中の龍」。読み進むにつれ浮き上がってくる先輩の悲哀に胸が締め付けられるような思いをしました。それと同時に私は本当に現実を生きているのだろうかという足元がぐらっとするような思いもあります。私たちが生きてるのはキラッキラな明るい場所だけではありません。その陰には何か得体のしれない魔物が潜んでいるものです。日常を一歩出たところにある妖しの世界がきっとどこかにあるのだろうという気持ちになった本でした。