沈黙の町で

沈黙の町で

沈黙の町で

中学校の校内で男子生徒が亡くなった事を取り巻くある町の話。色々な作風がある奥田さんだけど、社会派作品の奥田さんはザラザラした読み心地にゾワっとする読後感がたまらなくて落ち着かないものがあります。事件を巡って色々な視点から物事が語られるこの作品、教師やクラスメイト、刑事や検事、新聞記者、亡くなった男子生徒の母、男子生徒をいじめていたとされる生徒の親たちなどなどの視点が出てきます。物事ってどこから見るかで同じ出来事が全く違って見えるんですよね。学校は生徒を守りたい、子を亡くした親はとにかく真実が知りたい、加害者と目される子の親はわが子の無実を信じたい、事件に外側から関わる警察や検察は被疑者を上げて事件の解決をはかりたい、新聞社は記事を書かねばならない。彼らの立場はそれぞれ違うのです。だからこそのエゴも出る。そのエゴが怖いなあと思うのです。だってそれが自分のエゴだってことに気づいてないんだもの。それがもっとも怖い。
この小説、多くの人の視点で語られるのですが事件関係者でただ一人、視点人物にならなかった人がいます。それが亡くなった男子生徒です。ちょっと変わったとこがあり空気を読むことができない少年であったと語られていたが、彼は果たして何を思っていたのでしょうか。それは推察することしかできません。もちろん作者の中には答えはあるのでしょうが。たぶんだけど、あえて彼を語り手にしなかったことで死人に口無しということなのでしょうね。