新月譚

新月譚

新月譚

絶筆した作家の半生についてのお話。あんまり貫井作品ぽいなーという感じはしなかったけど終わってみたらこれも貫井作品ぽいかなーというふうに感じました。まず貫井作品ぽくないなーと思ったところは女性一人称で話が進むんだけど、あんまり違和感がなかったんですね。女性作家さんが書いたといえばそう思えるもの。桐野作品とかこういうヒロインいそうだなあという気もするし。今までとはちょっと違うかなと感じます。
ただ、和子がずーっと木ノ内に執着し続けるとこは男性っぽいなあと思いました。他に女がいようと木ノ内が結婚しようが彼と付き合い続けどんなに都合のいい存在になろうともつかず離れずでいるなんて男性からしたらこれ以上ない存在だよなあって思うもの。私読みながらいつ和子が木ノ内見限るかと思ってたのになあ。木ノ内が和子にとって特別な男であるのは読めばよくわかるんだけど、それでもあそこまで執着するほどじゃないって考えちゃうのは個人差なのか性差なのか。もしかしたら、和子にとって木ノ内という男は宗教だったのかもしれません。だからこそ、彼と離れることができなかったと解釈した方が男女の問題ととらえるよりかは理解がしやすい気もします。
作家が主人公ということでこの本は創作論についてのお話という捉え方もできます。和子は小説を書き始めた当初は設定やストーリーの枠組み等を細かく頭に描いてから書いています。しかし、その小説は小奇麗にまとまってはいるものの、それ以上でもそれ以下でもない。そんな小説を書き続けていた和子が自らを蛇口として枠を超えた物語を書く作家へと変貌していきます。以前とは全く違った作風になり評価も上がっていく和子。ここら辺の創作に関する話は作家貫井徳郎としての創作論なのかなあと思います。書く前に緻密に計算した物語よりも作家本人すらどこへ向かうのかわからないような物語に魅力を感じているのかなーって。読者としては面白ければどっちでもいいんだけど、作家さんとしては前者と後者じゃ創作の手法が全く違うので全然別物なんでしょうね。作家さんによって創作の手法は様々です。色々な作家さんにどちらですかというのを聞いてみたいなあ。