アニバーサリー

アニバーサリー

アニバーサリー

うーん、期待しすぎちゃったのかなあと言うところです。「ふがいない僕は空を見た」がすごくよかったのでハードル上げまくって読んでしまったのです。そうでなければもっと違ったふうに読めたのかなあと思います。私は晶子パートのほうが読んでて面白かったです。晶子は75歳のマタニティスイミング講師なのですが、彼女の人生は波乱万丈でした。戦争を経験しているというのもあるけれど、それだけではなくあの時代には珍しい生き方をしたからそこが興味深く感じられます。晶子はあの時代においてレアケースであって一般化できはしないが人を引き付けるとこがあったんじゃないのかなあと思いました。
もう一人の主人公真菜はなんていうかちょっと記号的に見えてしまいました。外から見たら恵まれた家庭に育ちながらも心の中は空虚で援助交際をしていた女子高生時代に始まり乳飲み子を抱えて東日本震災後の東京で放射能におびえる姿はちょっとテンプレすぎやしないかと。あの世代の屈折した女の子を描くにはこうっていうのを詰め込んでみたっていうふうに見えてしまってちょっと残念に感じました。真菜が30歳を過ぎても子供を持ってもまだまだ少女時代の屈折を乗り越えられずにいるあたりはリアルなのかもしれないなあとは思ったけど。
うーーん、力量がある作家さんだからもう少し違った形で物語を紡げたのではないのかと思うんですよ。物語を畳むのにあたって説教臭さを出さずとも違ったふうにメッセージをするりと織り込んで書くこともできたはずなのに。もったいないなあ。