水底フェスタ

水底フェスタ

水底フェスタ

辻村作品の特徴の一つに閉鎖社会を描くのがうまいというのがあります。閉じられてるが故の重苦しさやその重みがのしかかってきて彼らを縛りつけるきつさを上手に描いていると思います。今まではそれが学校という子供社会で描いてきたんだけど、今作ではムラ社会における大人たちの閉鎖性が浮き彫りにされています。脈々と受け継がれてきた村の秘密。それが主人公を苦しめることになるのです。
終盤にかけて村という共同体が色んなものを全て飲み込んでいく様が私は読んでて怖かったです。村はそうやって今まで生きてきたのだろうし、きっとこの先もそうやって生きていくつもりなのだろう。そこにあるのは個人個人の顔や意志ではなく「ムラ」の意思。何をどうやってもムラに絡み取られていく様は恐怖であるとともにある種の快楽でもあるのかなあというふうに思いました。だからこそ、村の大人たちはこの共同体を維持してきたのだし維持していきたいのでしょう。
帯には恋愛小説とうたってるけども、恋愛小説というよりもムラ小説といったほうのが正しいと思います*1。なので恋愛小説と期待して読むとちょっとあれかも。確かに広海は由貴美に恋してた。恋愛も描かれてはいる。でもジャンルとしては恋愛小説ではないよなあと思います。
決して後味よくないし心地よさを感じる本ではないけれど、私には十分面白かったです。

*1:売るためには帯って売れ線に寄り添うようなキャッチコピーつけたがるしね。なので私はあんまり帯の文章って信用してなかったりします。