我が家の問題

我が家の問題

我が家の問題

家シリーズ第2弾。前作同様、こちらも小気味のいい短編ばかりで面白かったです。奥田英朗、やっぱり鉄板だわ。
甘い生活?」
新婚だというのに完璧に何でもこなしてしまう妻のおかげで家に帰るのがおっくうになってしまった夫の話。お互いに育ってきた環境が違えば、当たり前だけど価値観だって違う。それゆえにお互い「え? こんな事が嫌なの?」「こんなことでも怒らないんだ…」っていう発見があります。そういうのを衝突しながらも乗り越えていってこそ、夫婦が出来上がっていくんだと思うんです。家族になっていくんだと思うんです。甘いだけが家族じゃない。


「ハズバンド」
妊娠6カ月にしてどうも夫が会社でお荷物扱いらしい事を知ってしまった妻の話。これはまたいい妻だなあと思いました。ええ、よくできた人です。だからといってリアリティがないかといったらそんなこともなくて彼女の等身大の姿にいいなあと思うのです。夫を気遣い、自分にできる事を考えて小さな幸せを考える彼女が私は好きです。


「絵里のエイプリル」
ひょんなことから両親が離婚しようとしている事を知ってしまった高校3年生の女の子の話。家族の数だけ、家族の物語はある。ある家では当たり前の事でも違う家では信じられない!などといわれてしまうことはよくある話です。両親が離婚に向けて動いてるらしい事をつかんだ絵里は友達に親について色々聞いて回ります。その中で実は自分が普通だと思ってた事はみんなにとっても普通とは限らないんだという事に気がつきます。辛い現実に向き合うのは想像以上に大変な事。だけど、不思議と暗い気持ちにならなかったラストシーンのおかげで主人公を応援して終われる事が出来てよかったなあと思います。


「夫とUFO」
夫が突然UFOを見たといいだし、さてどうしたのだろうと案じる妻の話。これね、一体どんな話かと思ったらばなんとも美しい夫婦愛の話でしたよ。夫を受け止め、思案した妻がラストシーンで取った行動がはたから見たらアホなんだけど、だからこそ際立つ夫婦愛にちょっと涙ぐみそうになりました。絵面はアホだけど、すっごくいいお話。


「里帰り」
結婚して初めてのお盆を迎え帰省をする夫婦の話。私は両実家ともに近いので帰省問題にはぶち当たらないんだけど、実家が遠方の人って大変なんだろうなあと思います。誰だって好きで渋滞はまったり乗車率が半端ない新幹線に乗るわけじゃないものね…。しかしこのお話は実家帰省を鬱陶しく思っていた夫婦が、やっぱり帰省っていいなあって思わせてくれるお話でした。行く前は色々思うところがあったものの、でもこういうのも悪くはない。


「妻とランニング」
妻がランニングにはまってしまった小説家の夫の話。夫視点の話なんだけどランニングに打ち込む妻の気持ちにシンクロしてしまい、なんとも言えなかったです。主婦って母親業って評価軸が明確じゃないんですよね。頑張った評価を誰がどうしてくれるのかっていうのが非常にあいまい。だから急になんだか言葉にできないような不安に襲われたりします。私は何をしてるんだろう、何が積み重ねてるんだろうかって。
しっかし、奥田英朗はすごいです。こういう微妙なとこまでもさらっと書いてしまうんだもの。本当に男性作家なのって疑ってしまうわ(笑) ラストシーンも非常に絵になるよいシーンでした。


6つの中では「絵里のエイプリル」「夫とUFO」が好み。もちろん、他の4編も面白かったし好きなんですけどね。全体を通してなんだか「11人もいる!」を思い出したりしました。家族ってあったかいよねーという感じや家族が色んなものを包み込んでいく感じが似てるなあと思って。もちろん、明るいだけの話じゃないんだけど根底に流れてる空気が私は好きでした。