小暮荘物語

木暮荘物語

木暮荘物語

小暮荘にまつわる人々の話を描いた連作短編集。どの話も濃度の差はあれど性にまつわる話になっています。だからといって特別やらしい話かといえばそんなこともなし。ラブコメ風味もあればしっとりじっとりした話もありで面白かったです。私はこういうしをんさんも好き。振り幅があるのがいいとこだと思うのです。
「シンプリーヘブン」
恋人といるところに3年前の恋人が現れて奇妙な関係になる3人の男女の話。ラブコメ風味の明るい話で白しをんぽい感じ。並木のどこか地上からふわんと浮いた存在感がいいなあと思いました。
「心身」
老境をすぎてひょんなことから現役復帰していたしたいなあと願う老人の話。老いと性を絡めた話がくるとは思ってなかったのでちょっとビックリ。そこら辺はもう少し上の世代の作家さんたちが今後テーマにしていくのかなーと思っていたので。生と性、切っても切り離せれないものだけに今後このテーマをどう描いていくのか注目していきたいところ。たぶんだけど今後もしをんさんはこのテーマに挑むだろうから。
「柱の実り」
駅のホームの柱に奇妙なものが生えてるのを見つけてしまったトリマーの話。じっとり湿度高い話でした。背負ってるものの事考えるとねえ。
「黒い飲み物」
不倫を疑う子供のいない夫婦の話。読みながらたぶんこうなるだろうなあと思っていた方向へと話が流れていきました。基本的には描かれていることは不快な事ばかりだしいやーな話なんだけどその不快感を楽しむ話でもあるんだろうなあと思います。
「穴」
階下の女子大生の生活をのぞき見しているサラリーマンの話。あー気持ち悪いと思いながらもするするっと読めてしまいました。ラストのあっけなさにあらっと思ったんだけど、「ピース」と合わせ読みすると腑に落ちました。
「ピース」
妊娠することが叶わない女子大生の話。「穴」で覗かれていた女子大生視点での話です。「穴」を読んでるときと彼女の印象がガラッと変わって語り手が違う連作短編集の醍醐味を味わえました。視点を変えるだけで物の見方って全然違うんですよね。誰もかれもが全てをさらけ出して生きてるわけじゃない。いえない何かを抱えている人だっている。目に見えるものが全てじゃないのです。
「嘘の味」
料理を食べると作り手が嘘をついてるのか浮気をしているのかがわかってしまうという特技を持った女と出会った男の話。最初の短編に出てきた並木の話です。じっとりした話を間にはさみつつ、こういう話で短編集を終えるあたりしをんさんうまいなあと思いました。『天国旅行』を読んだ時にも思ったんだけど、短編集の構成うまいですよね。順番が違うと本全体の印象が変わっちゃうと思うんです。だからこそ構成は大事。
私は「柱の実り」「ピース」が特に好みでした。こういうしっとりしたしをんさんもよいのです。