- 作者: 中島京子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/05/27
- メディア: ハードカバー
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この本では戦争を前に不穏な空気に包まれているはずの日本が明るく楽しいことだってあったのだというふうに描かれています。たぶんだけど私たちが思っているのと戦前戦中をリアルタイムで経験してる人たちの間ではそのとらえ方が違うのですね。作中で手記を読んだ甥っ子からこの当時こんな呑気で明るかったわけがないといわれるものの、タキさんはいやいやそういうものだったと言いはります。もちろん、タキさんが勤めていたのは中流家庭なのだからそれなりに華やかだったからというのもあるのでしょう。でもそれを差し引いても楽しいことなんて早々なかったと決めつけていたあの時代を人々は楽しんでいたんだなあと思うとなんだか不思議な感じがします。同じ事でもどこから見るのか、どう切り取るのかで見える風景は全然違う。そういうことを感じました。
最終章である出来事がくるっとひっくり返って謎がひゅるりととける様はお見事でした。そのための伏線もしっかり描かれてるし私は満足です。地味な本ではあるけれど、こういう本が直木賞受賞作として評価されてよかったなあと思います。いい読書時間でした。