私にふさわしいホテル

私にふさわしいホテル

私にふさわしいホテル

文壇の裏側を描いた文壇小説。なんともアクロバティックな小説になっています。主人公は才能がありながらも不運が続き中々作品を発表する場が回ってきません。それを彼女が持ち前のガッツと頭の回転のよさを生かしてチャンスをもぎ取っていく様子が痛快でした。チャンスが巡ってくるのをただ待ってるだけじゃダメ、自分からチャンスをもぎ取らないと勝ちにいく人生は送れない。そう思うとともに読み進めるにつれ変化していく主人公加代子の執念が怖くなったりもしました。彼女は作家として成功して確たる地位をえるのだけど、でもなんだか心のどこかでは満足しきれない感じがするのです。なんだろう、作家という生き方の業なんですかねえ。
大物作家として登場する東十条宗典が明らかに某大先生をモデルにしてて面白いというか、同じ業界で仕事をする身でいながら柚木さん大丈夫って思っちゃいました。だって、直木賞をモデルとした直林賞受賞をした60代のベテラン作家で過去に何度もベストセラーを出し映像化された作品も数々、中高年男女の性愛を描き団塊世代に人気で生き方指南所も出しているといったらあの人しか思い浮かばないもの。まあ、けちょんけちょんにけなすだけではなく実は愛すべき人物だったという描写もあるのでギリセーフなのかもしれませんが。いや、でもアウトか。
実名で登場する作家も何人かいてその中にはセリフもある人もおり、宮木あや子南綾子朝井リョウといった面々が出てきます。特に朝井さんはセリフの量とインパクトがあってドキッとしました。作家業ってやっぱり大変だし孤独なのねえ。編集者と二人三脚という面もあるだろうが、物語を紡ぐ作業は並大抵のものじゃあないしね。ましてや1つ物語を書いておしまいではなく売れ続けること、本を出し続けることは更に大変なのでしょう。