少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部

少年少女飛行倶楽部

幼なじみが先輩に一目ぼれをしたことから道連れ的に飛行倶楽部というちょっと変わった部活に入ることになった女子中学生の話。あー面白かった! 出てくるキャラはみな個性的なちょっと困ったちゃんばっかで主人公は振りまわされてばかりで大変なんだけど、読んでて不思議とそんなに嫌な気持ちにはなりませんでした。それはたぶん作者である加納さんの視線が優しいからなんでしょうね。

「くーちゃんはさ、<二人組>の怖さなんて知らないでしょ」
唐突に言われ、私は首を傾げた。
「体育でも、理科の実験とかそういうのでも、もっとすごくくだらない、暇潰しのゲームみたいなのだって。『さあ、今から二人組になってください』って先生とか子供会の役員さんとかから言われて、その瞬間、どんなに私がどきどきしてるのかって、知らないでしょ」
「え、何の話?」
「奇数のとき、余っちゃうかもしれない。偶数のときでも、余り者同士で仕方なく組むことになるかもしれない。あと、グループ分けでもさ。どのグループも、私のこと、いらないって行ったらどうしよう……そんなことばかり考えて、体は反対にすごく冷たくなって……そんな思いって、したことないでしょ、くーちゃんは。だってみんな、くーちゃんのこと好きだから。みんなくーちゃんとなら、二人組になりたいって思ってるから。だから私、いつも必死だったんだよ。クーちゃんをとられたくないように……だってくーちゃんてば、先に『組もう』って言った子と組んじゃうんだから」
(中略)
「ゴメンね、それが悪いっていってるんじゃないんだよ。全然逆。いつもすごくうらやましかったんだ。私さ、天然キャラだと思われているけど、でもそういうの、自分で作ってる部分もあって……でもあんまりうまくいかなくて。どうしたらくーちゃんみたいになれるんだろうって。最近、ちょっとだけわかってきたんだけど、みんなに好かれて、誰とでもうまくやっていける人って距離の取り方がうまいんだよね。あんまり近づきすぎないの(略)」

引用したのは主人公くーちゃんと樹絵理の会話です。女子あるあるをサクッと切り込んでます。これって二人組だけの問題じゃないですよね。グループ分けの難しさは女子ならではの人間関係の煩雑さそのもの。距離が近すぎても遠すぎてもうまくいかない、だから適正距離をはかっていくわけですがそれは経験を積むしかないんですよね。痛い目あわずにできるようになればいいんだけど、なかなかそうはいかないもの。
飛行倶楽部に集まった面々はみなちょっと変わった名前の子ばかり。主人公の海月(みつき)は何故かくーちゃんと呼ばれています。それは漢字がくらげと読めることからきたあだ名だから。くーちゃんを飛行倶楽部に引っ張り込んだのは樹絵理(じゅえりー)、じゅえりの憧れの先輩はヒトデと読むことも可能な海星、部長は神(じん)、あとから飛行倶楽部に加わるちょっと変わった女の子の朋(るなるな)、親の野球好きが高じて球児という名前を付けられた少年などなど。親の名付けは子供に対する願いや希望でもあるけれど、時には呪いになることもある。さらりとしか触れてなかったけど、名付けに関するくだりにはちょっとドキッとしちゃいました。名前はとても大事なものです。でもそこに必要以上に子供を縛り付けちゃいけないんだなあとも感じます。
サクサクっと読めて、でも心にじんわりくるものがあるそんな本でした。