小暮写真館

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写真館に引っ越してきた花菱一家のお話。宮部さんはやっぱり優しいなあと思いました。優しいだけではなくシビアな視点も持っている作家さんだけどやっぱり根底にあるのは優しさなんですよね。あとは人間が好きなんだろうなあというふうにも感じます。
花菱家に小暮写真館を仲介してくれた不動産屋で事務員をやっている柿本さんは何度か自殺未遂を繰り返しています。薬を過剰摂取したり電車のホームに飛び込んだり。柿本さんが電車のホームに降りた時ににたまたま居合わせてしまったのが主人公である花ちゃん。電車は緊急停車して柿本さんは無事命をつなぐのですが彼女の言い分は「電車を正面から見たかっただけで死のうと思って降りたわけじゃない」というのです。それを知った花ちゃんは当然そんなわけないだろうと思うのです。まあ当たり前ですね。誰だってそんなこと信じるわけはないのです。これは彼女の言い訳であって本当のことではないだろうって思うのが当たり前。しかし不動産会社の社長は違います。本人がそういうのだからそうなのだろうと言います。ここで外野が「自殺未遂したんだろ」っていったら彼女は自分のやったことが外側から見てそう見えてるんだと思ってしまうからそれはよくないだろうと。だから彼女がいったことをそのまま受け止めてやろうというのです。ああ宮部さんは優しいなあ。真正面からいうことだけが正しいわけじゃない、正論はくのがいつでも正義じゃない、そういう事を描いてくれるのがいいなあと思うのです。
花菱家は7年前に当時4歳だった娘・風子をインフルエンザ脳症でなくしています。その死をめぐってそれぞれが重荷を背負っていて自分のせいで死なせてしまったと思いこんでいるのです。しかし、本当は誰が悪いわけでもなかった。仕方のないことだった。でも自分を責めずにはいられないあたりは辛かったですね。特に母親である京子のくだりはしんどかったです。でも親って母親ってそういうことあるよなあ。
700ページを超す長編でもう少しコンパクトにできたんじゃないのかなあと思ったりもしたけれど、読み終わった今は読めてよかったなあと感じています。