- 作者: 佐藤友哉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/05/28
- メディア: 単行本
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6つの短編の中では「死体と、」と「欲望」がよかったです。
「先生の主観で、先生の認識で、先生の経験で、先生のデータで語っちゃ駄目だよ」水村理志が云う。「僕たちはそうなんだから、これはもう仕方ないじゃんか。僕たちはこれを……何となくやってる。その言葉以上でも以下でもない、本当に何となくなんだ」
「理解できないかしら」滝川恵子が感情の読み取れない瞳でこちらを見ている。「でもそれは、先生が大人で私たちが子供だからってわけじゃないわ。先生なら解ると思うけど、思考回路が全然理解できない他人っているでしょう? どんなに言葉を聞いてもどんなに歩み寄っても解らない他人。それはどうしようもなく存在するわ。そして先生と私たちは、たまたまその関係になっちゃっただけなの。私たちにだって何を考えてるのか解らないやつっているし。まあ、残念だけどあきらめるしかないわね。相互理解は不可能よ」
これは「欲望」の引用です。ある日突然高校1年生の4人が銃を乱射して学校を血祭りにあげたのを担任教師が何故そんなことをするのかと問いかけたとき、この答えが返ってきたのです。ぞっとするけど、それは場面が生きるか死ぬかであるためとあまりに日常からかけ離れたシーンだからであって、こういうことってよくあるもの。同じ日本語をしゃべって同じように育ってきたはずなのに言葉が全く通じない。コミュニケーションが成立しない怖さ。見知らぬ場所に放り出されてではなく、日常の延長でっていうのがすごく怖いです。
「怖いものには目をつむって、臭いものにはフタをして、いやなことからは逃げ回っている。それだけじゃないか」
「でも、それはそれで解決ですよ」
目をつむれば、フタをすれば、逃げ回れば、つまりお人形になってしまえば、私は一切害を受けていないことになります。私にとってはそれは解決でした。だってそうじゃないですか、問題を気にしなくてもよいのですから、それは完全なる解決ということになります。
こっちは「リカちゃん人間」からの引用。現実から逃げるなというのは簡単だし正論なんだけど、それだけじゃ人間壊れてしまうときもあるわけです。正論を振りかざす人って私は正直あんまり好きじゃないです。だって正面から一点突破ができるっていうのならとっくにやってるよって思うもの。それじゃ駄目だから苦しいわけで。