片眼の猿

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

片眼の猿―One-eyed monkeys (新潮文庫)

「向日葵の咲かない夏」の印象が強かったせいか、道尾秀介は後味の良くないホラー風味のちょっと気持ち悪い話を書く作家と刷り込まれてました。だから読んでちょっとびっくりしました。文体がだいぶ軽くなってるし何より後味が思いのほかさわやかだったので。なーんだ、こういう話も書けるんじゃーんと。メッセージ性も強く、印象がちょっと変りました。でも、伏線もちゃんと張ってあるし、読者をだます仕掛けもあるし、こういうのもありかもなあと思います。

「きみは何故、あの連中が強く生きていられるんだと思う?」
俺の質問に、冬絵はただ首を横に振った。俺は正解を言った。
「気にしてないからさ。俺も、あの連中も、自分の体のことなんて何も気にしてないんだ。だから、強い。(ネタばれのため略)」

コンプレックスがあったって大丈夫、ちゃんと強く生きていくことはできるんだ。そういうメッセージのもと、書かれた本なのかなーと思いました。ミステリとしてのアイディアがあったから書かれたのではなく、このメッセージあり気で書かれたのかなあという印象です。本当のところはどうだか知らないけれど、なんだか前向きだなあと思ったので。