遠まわりする雛

遠まわりする雛

遠まわりする雛

古典部シリーズ第4弾。連作短編ミステリです。高校1年の1年間に起こったちょっとした事件の謎を解いていく日常の謎ミステリ。この中だと「心あたりのある者は」が1番好き。
奉太郎とえるは「十月三十一日、駅前の弘文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」という校内放送を聞きます。で、この放送がどういう意味で行われたのか、推論をするというものです。いやー楽しかったです、本当に。探偵の考える筋道を一緒に辿りながら、結論へと無理なくジャンプするのを一緒に体感できるというのがたまりません。この感じは「春季限定いちごタルト事件」のココア事件、「夏季限定トロピカルパフェ事件」の「シャルロットは僕のもの」を読んでるときに通じるものがあります。差し迫った事件を推理するわけじゃないゆえに、ゲーム性が高まる推理合戦っていうのが私は大好きなんです。いや、差し迫った事件を推理するのも大好きなんだけどもね。どっちも大好物なんだけどね。とにかく、「心あたりのある者は」はミステリを読む醍醐味を味あわせてもらったお話で、私は大満足です。

物事の見方は単一ではないというのは、これは今日もはや常識の属するのだ。なにしろ俺は、旧友といっていいだろう里志のことでさえ、あれほどわかっていなかった。誰も嘘をつかなかったとしても、こちらが勝手に誤解しているとか相手が勝手に曲解しているとかいうのも、これも実にありそうなことだ。

「手作りチョコレート事件」からの引用。そうなんだよね、そうなのよ。このことを人とコミュニケーションを取る際に忘れてはいけないわけです。
でもって書き下ろしの「遠まわりする雛」のラスト、うわーうわーうわー青春だよ! ちょっと! こんなストレートに書いてくるとは思わなかったから、ちょっとドキドキしました。小市民シリーズで小鳩くんと小佐内さんが互恵関係を自認するのとは違った関係を奉太郎とえるは築こうというわけですね。古典部シリーズの第5弾をこの秋から連載開始だというけど、今までの4作以上に青春小説の色合いが濃くなるのだろうか。もちろん、ミステリ小説なんだろうけど。うーん、どうころがるのかしら。