ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ

源氏物語を下敷きに9人の作家が競演したアンソロジー。それぞれの作家さんの個性が出てて面白かったです。現代語訳のお手本みたいな感じの原典に忠実なものもあれば、換骨奪胎しちゃったのもあったりでバラエティに富んでいるのもよかったです。ちょっと出来にバラツキがあったかなあとも感じたけれど。夢中になってあっという間に読めちゃったのもあれば、なんで短編なのにこんなに読むのに時間がかかるのよっていうのもあったから。
角田光代作「若紫」は娼館と思しき場所にいる若紫視点での話。若紫の息苦しさが読んでるこっちまで伝わってくるようでした。
町田康作「末摘花」は話は大筋原典通り。しかしそこは町田康。文章がはねてます。面白いのなんのって。こういう訳だったらば古典の授業もさぞかし面白かろうになあと思いました。
金原ひとみ作「葵」は現代の話で葵と光の若夫婦の話になっています。完璧に原典からずれちゃってます。でもだからと言って面白くないかと言えば意外や意外、私はよかったと思います。葵が母性について考えているくだりとかが興味深くて面白いなあと。最近の金原作品を読んでないからよくわかんないけれど、デビュー時からだいぶ変わったのかなあと思いました。
桐野夏生作「柏木」は大筋は原典通りだけど視点が女三宮。彼女の視点に立ってみるといくら光源氏といえども親子ほど年が違う彼がいうほど魅力的に見えず、それどころか醜ささえ憶えるほどでした。視点を変えれば同じ話も違ってみるといういい例。
全体的にアレンジを加えてある作品のほうのが興味を引かれました。せっかくのこういう企画なんだもの、教科書通りの源氏物語を読んでも面白くないし。それならば普通に源氏物語を読めばいいだけの話だから。こういうお遊び企画ゆえのはねた感じが私は好きなんだなあというのがよくわかりました。