隻眼の少女

隻眼の少女

隻眼の少女

伝説が伝わる旧家に起こった連続殺人事件の話。面白かったです。なるほどなあと。麻耶雄高らいい作品だと思いました。一見きちんと計算された推理が構築されていたかと思いきやドンガラガッシャーンとハカイダーのごとく木端微塵にしてしまうあたりは好き嫌いは分かれそうだけど、きちんと意図を持って書かれた作品だと思うし私は好きです。ラストのひっくり返しっぷりも怒涛の展開で面白かったしね。それまではさほど感じなかった麻耶雄高の底意地悪さ全開なあたりもポイント高し。やっぱりそうじゃなくっちゃ麻耶雄高じゃないよなあ。
以下ネタばれしてるので畳みます。事件の犯人についても触れてるので未読の方は要注意。この小説について語ろうと思ったらばネタばれ避けられなかったのです。
色々読書ブログ読んでたらこの本は後期クイーン問題を麻耶雄高なりに問いなおしたものではないかと指摘している方が幾人かいてなるほどーと思いました。後期クイーン問題というのはこの2つです。

  • 作中で探偵が最終的に提示した解決が、本当に真の解決かどうか作中では証明できないこと。

小説という閉じられた世界の中でちゃんと真相を推理出来とは限らないのです。それは探偵が得た手がかりですべて揃っているとは限らないし手に入れた手がかりの中に偽物が混じっていないとは限らないからです。要するに探偵が知らない事実が存在することを探偵自身が察知できないという事です。

  • 作中で探偵が神であるかの様に振るまい、登場人物の運命を決定することについての是非

ミステリ内においては探偵は神です。神はたまに間違えたりもするけれども最後には犯人を名指しして物語はしめられます。しかし神が動くことによって本来起きるはずではなかった事件が起きてしまったりするという矛盾も起きているのも事実。


この2点について書きたかったが故に書かれたんだろうなあというのは明白。この作品は「探偵=犯人」です。というかそれがやりたかったからこそ二部構成にしてるんだろうし。今回の探偵役は御陵みかげという少女。御陵みかげは母から娘へと受け継がれていくものです。第一部で出てくるのは初代から名前を受け継ぎデビューしようとしている二代目、二部で出てくるのは二代目亡き後襲名したばかりの三代目御陵みかげ。この三代目が二代目が解決したはずの事件の真相を看破し母である二代目が真犯人と突き詰めるのです。その際、探偵=犯人がいかに擬餌をまいていきミスリードしていったのかを説いていくのですが、これがまた面白いのなんのって。一部できれいに構築したはずの推理が全てうまいこといろんなことがひっくり返されるんだもの。なるほどねえ、そういう見方もできるわねって。しかしそう思いながらも果たしてこれが真相なのだろうかと読者は思うわけです。だってここに書かれていない事実だってあるんだし、犯人が本当の事を言ってるかどうかなんてわかんないんだもの。じゃあ真相ってどこにあるんだろう。そういう袋小路に入っていくのを楽しいと感じるかどうかがこの小説の分かれ目かなあというふうに感じました。