東京観光

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7作の短編を集めた短編集。なんとも不思議な味わいのある1冊でした。なんていうか川上弘美作品を読んでいるみたいな感じ。ふわっとしてどこか現実から5センチくらい浮いちゃってるような雰囲気。でもそれがまた心地がよいのでもあったり。うまくいうことはできないけれど、私はこの本が好きです。中島京子作品は久しぶりに読んだんだけど、こんなに文学っぽいのは初めて読んだのかもしれないです。軸足は文学においてるけれど、もっとエンタメっぽい作品を書く人というイメージだったから最初は少し戸惑ったけど、慣れていくとこの世界が居心地よくなるという不思議な読書でしたも。

同じ相手と一緒にいても、やさしい気持ちになれることとなれないことがある。やさしい気持ちになれる時期と、そうではなくなる時期がある。意地の悪さとやさしさは、まったく違う二つの感情ではなくて、根っこは一つのところにある。人の魅力と欠点も、たいがいは根っこの同じものなのだ。他人を変えることはできない。こちらが変わることもできない。ただ、意地悪をしないとか、許すとかいったことができるだけだ。

シンガポールでタクシーを拾うのは難しい」からの引用。激安だけど安いのには理由があるというツアーでシンガポールに旅行にきた夫婦の話。この言葉が素直にポーンと入ってきちゃうようなお話でした。人間関係って難しいけど大変だけど、でもそれだけじゃあない。

「この年になるとわかるじゃない? たいていの人が、少しずつ変だわよ。百パーセントまともだなんていう人のほうが、気味が悪いわ。お互いにお互いのわけわからない変なところを、許して生きていけるならいいんじゃないの?」

「天井の刺青」からの引用。これは意外な展開を見せたお話でした。まさかそこがオチなのかと。なんていうかまあ、ものは考えようというか。普通はこういう展開にしないけど、これはこれで物語としてはありなのかもしれません。