70歳死亡法案、可決

七十歳死亡法案、可決

七十歳死亡法案、可決

2020年、70歳以上の国民は誕生日に死ぬことが義務付けられた法案が可決され2年後の施行を前に人々の色々な思いが渦巻いている。寝たきりで介護が必要な義母、菊乃の介護をする嫁、退職まで数年を切った夫、有名大学を卒業し大手銀行に勤めていたものの退職してしまい以来引きこもっている息子、一人暮らしをしている娘。少子高齢化によるもろもろの問題を解決するために可決された70歳死亡法案に翻弄される宝田家の人たちを描いた「もしも」小説。
介護をめぐる話は重かったですね。介護される側する側双方色々な思いを抱えてるわけで出口が見つからない状態は辛いです。寝たきりで介護が必要なものの元気いっぱいの義母は嫁を顎で使って当然と思い、こんな状態の自分が歯がゆくかわいそうと思っています。介護する嫁は全てを押しつけられ、でも夫や息子に頼ることができずに袋小路に入り込んでいます。あーもう何このあるあるって読んでて気分が沈んだのは言うまでもありません。介護って他人事じゃないもの。でもって男たちの暢気さといったらねえ。設定は2020年という近未来にもかかわらず、宝田家を支配しているのは昔ながらの価値観。男たちの他人事っぷりったらないです。でもこれは一方的に彼らが悪いのかといったらそうではなく、女が滅私奉公するものだというふうに刷り込まれたままでいる彼女たちの責任でもあるというふうに描かれてるあたりのバランスのとり方は面白いなあと思いました。
退職して以来引きこもっている長男、彼は再就職がうまくいかず迷い道に入っている状態です。これもまた、家族の問題という視点で描いています。彼自身の問題も当然あります。しかし、何故就職ができないのかの中に母からの期待を上げています。有名大学を出て誰もが知っている就職先を退職したんだもの、ランクを下げるような所には就職できないというふうに思いこんでいます。これは彼の不幸です。母の呪いがかかった状態なんだもの。彼は彼の人生ではなく、母の期待する息子という人生を歩んでるだけなんだもの。
こういった色々な問題を70歳死亡法案という荒療治で解決しようっていうのがこのお話です。ラストに向けての展開はちょっと色々な事がうまくいきすぎてちょっとご都合主義かなあと思わないでもないけど、これくらいのまとめ方じゃないとどんよりしすぎちゃうと思うんです。重いテーマの本だけに希望を描いて欲しいというのもあるのでこれはこれで悪くはないんじゃないかなあと。さてはて、現実の日本はどこへ向かうのか。希望を持てるよう動いて欲しいものです。