キミトピア

キミトピア

キミトピア

7つの短編を収録した短編集。短編集というか中篇集かな。短編というには少し長めのお話が入っています。とにかく読んでる間物語の世界に入っていられるのが嬉しくて嬉しくて、そんな本でした。物語の展開としては「起・承・承・承・結」って感じ。物語が転がって転がってポーンと終わりが下りてきちゃう。起承転結という物語のフォーマットとは違うけど、この物語たちにはこちらのほうのがあってると思ったので全く気にならなかったです。
特に好きなのは「やさしナリン」「真夜中のブラブラ蜂」の2作。「やさしナリン」はかわいそうな人を見るといても立ってもいられなくなって後先考えずに行動してしまう夫と義妹を持った小説家の話。かわいそうな人に優しくするのって正しいことなんですね、普通は。だけど、彼らの場合は後先考えず周りの迷惑顧みずに動いちゃうのでそれが問題なのです。優しさをコントロールできずに人を傷付けるのならば、それって本当に優しいのだろうか。正しいことは本当に正しいのか、正しいのに間違っている間違っているのに正しいってことも実はたくさんあったりします。
「真夜中のブラブラ蜂」は20歳で産んだ息子が大学生になり家を出ていったのを機にぶらぶら散歩するようになった主婦の話。ブラブラするうちに彼女は家族とすれ違っていきます。3人一緒に住んでいた頃と夫婦2人暮らしになってからの家族は同じなようで違っていてそこら辺が決定的になるシーンがなるほどって感じで興味深かったです。物語の終わりが最初読んでたときとは予想外の方向に進んでいってポカーンともしたけれど、でもそういう感じこそが「ブラブラ」なのかなーと思ったり。
舞城作品は誰を主人公にしても語り手にしても視点人物にしても面白いんだけど、女性視点の物語のほうのが私は好きかなーって思います。なんていうか、しっくりくるというか。