憧れの女の子

憧れの女の子

憧れの女の子

5つの短編を収録し、家族や妊娠、ジェンダーなどに踏み込んだ広い意味での家族小説。ジワリジワリとくる人間のいやーな部分を描きつつも読後感を損なわないような作りになっていて面白かったです。朝比奈さんは最初の1冊を除いて他は全て単行本を読んでるんだけど、どんどんうまくなっていて新しく読むのが楽しみな作家さんです。短編集って長編とはまた違った見せ方をするものだがそこらへんの微妙な展開の持ってき方がよかったです。
その中で特に気になったのが「憧れの女の子」「ある男女を取り巻く風景」の2作。「憧れの女の子」はタイトル見て少年の淡い初恋の話、もしくは教室の中でひときわ輝く女の子に憧れる女の子の話かと思っていました。しかしふたを開けてみたら男児2人を持つものの、どうしても女児を出産したいという妻に振り回される夫の話でした。どんどん産み分けにのめり込んでいく妻に感情がついていかない夫、その上彼にアプローチをかける会社の若い女の子も現れて読みながらどんどん居心地の悪さに胸がギュっとなっていきます。が、その後物語はきれいな着地を見せほっとさせてくれました。その着地の仕方がこれまた美しいのです。無理やり感もないし、キレイ事にしようとして無難にまとめたふうにも感じなかったし。ああよかったなあ、それだけ。
それにしても男性って妊娠についての知識って少ない人がやっぱり多いんですかねえ。「憧れの女の子」に出てくる夫は胎児の性別が着床した時に決まることを知らず、妊娠途中でどちらかに振り分けられるのだろうと考えていました。それが妻が産み分けに躍起になったことによってやっと知ることになるのです。2児の父とはいえ、まあでもそんなもんかもなあという気もします。だって自分が妊娠するわけじゃないものね。女性だってまだまだ妊娠が縁遠いであろう若者の頃は妊娠出産の知識は欠けてるしね。
「ある男女を取り巻く風景」ではありがちな関係の2人を逆転してみせたところにハッとさせられました。でもって読んでて痛いとこ突かれたなあとも感じました。しかし、こちらの逆転関係も全てきれいに反転するわけじゃあないんですよね、そこがミソ。ここらへんはよしながふみ作『大奥』と同じですね。他のことは男女どちらが行ってもかまわないが妊娠出産だけはそうはいかないもの。これだけは男性にはできないから。ジェンダーの問題を考える時、どうしてもぶち当たる壁がそこにあるのです。それをわかった上でどういうふうに生きたいのか、どういう社会にしたいのか、差別と区別をどう分けるのか、これが大事なことなのだと思うのです。