願いながら、祈りながら

願いながら、祈りながら (文芸書)

願いながら、祈りながら (文芸書)

たった5人しか生徒がいない北海道の中学校の分校を舞台にした連作短編集。語り手は新任教師と5人の生徒たちがつとめています。中2病的な痛さがある話がある一方、「普通」の意味を考えて胸がギュっと締めつけられたお話もありました。
物語の主人公たちのうちの一人にうそつき少年がいます。彼は何のためらいもなくウソをつきます。普通に考えれば彼の行為は褒められたものではありません。ウソで塗り固めてどうするのか、ついたウソが露見したらどうするのか。でも、彼のウソはそれとは少し違います。彼は自己保身や自分のためのウソはつきません。彼がウソをつくのは周りを思っての事です。自分の周りの人たちの笑顔が曇るようなことは避けたい、ただそれだけ。そのためにその場限りのウソをつき続けます。彼は自分に未来がくるのを信じられないから、簡単にばれる嘘をつき続ける。それはとても切ないことです。中学生なのに、まだ子供なのに自分に明日があるのを信じられないって大人としてはとても切ないです。
彼はある出来事を機に変わるのですが、願わくば彼らがまたみんなそろって笑顔でいられますように。そう祈らずにはいられません。読み終わったときにタイトルがしっくりくる、そんな一冊でした。