無菌病棟より愛をこめて

無菌病棟より愛をこめて

無菌病棟より愛をこめて

小説家である加納さんの急性骨髄性白血病の闘病記。2010年6月、『七人の敵がいる』が刊行されて忙しくしていた頃に加納さんは診断され即日入院をされたそうです。加納さん43歳の夏でした。お子さんは中学に上がったばかりで「絶対行くよ」と約束していた中学最初の授業参観を見に行くことができず病院で涙した日も。
私はこの本を読むまで加納さんが白血病だったことを知らなかったのですごくびっくりしました。白血病は10万に5.5人発症するそうです。その中でも加納さんがかかった遺伝子異常のタイプはわずか1%ほどだとか。途中がんセンターに転院するのですが、がんセンターの加納さんの担当医もこのタイプの患者さんを担当するのは加納さんで2人目だといってました。

私は幸せだ。本を読んだり、漫画を読んだり、アニメを視たり、どんな時でも物語に熱中し、別の世界に耽溺できる喜びを知っている。小説を書くこともまた、そうなんだろう。それは決して現実からの逃避などではなく、ただ無限に世界が、小宇宙が、波紋のように広がっていくということだ。
内に向かうばかりがオタクじゃない。世界中、どこにでもつながっている無限の海に、果敢に漕ぎ出していく……否定ではなく肯定のため、批評ではなくただ純粋に楽しむため。
それが私のオタク道だ。

入院初日に外泊許可が出た加納さん。やったことはアニメの積録を消化したり録画予約を色々いじくったり。加納さんは自称オタ主婦なのです。白血病の驚きが大きすぎたものの、このことにも地味に驚きました。だってそんなイメージなかったんだもの。入院中も体調が許せば部屋のテレビやケータイのワンセグでアニメを楽しんでたそうです。意外だ。でもって、そんな加納さんのオタク道が引用した文章になります。ヤダ、かっこいい、めっちゃかっこいいわ加納さん。私もオタク道を歩むものとして日々精進しなければ。
こちらの本はノンフィクションの闘病記ということでプライベートな部分が色々と出ています。その中で同業者だという夫の話も出てくるのだけど、さてどの方かしらと思ったら貫井徳郎さんだったのですね。知らなかったー。夫婦そろってミステリ作家さんなのね。貫井さんは2010年に山本周五郎賞を受賞したものの、加納さんの病気がわかり受賞式を欠席されています。加納さんは出席して欲しいと思ったものの、貫井さんが欠席を決断されたとかで。闘病記の中に出てくる貫井さんは著作とはイメージが違ってていい意味でギャップがありました。でもって夫婦で交わされる会話がいいなあって思いました。
加納さんは幸い、弟さんと型が合い*1無事2010年10月に骨髄移植を受けて12月には退院して自宅で日常生活を送ってるそうです。本当によかった。もちろん、退院してお終いではないし全てが元通りの生活というわけにもいかないけど。加納さんのドナーとなった弟さんだけど、断酒をしたりよい骨髄が移植できるよう食事に気を使ったりされたそうです。その心づかいがこれまた泣けるのなんのって。
この本は涙なしには読めなくて読むのにとても時間がかかりました。加納さんは客観的に自分を観察して書いてる面もあったし、前向きに病気と向き合って時にはユーモアを交えてみたりと色々工夫をされていたけど、それでも辛い本でした。がんセンターで出会った方の中には18歳の女の子や産後1カ月で再発して入院してきた方たちもいます。病気は人を選ばず蝕んでいく。そんな辛い現実がたまらなかった。つとめて明るく書かれてた文章なのに涙があふれてくるのが止まらなかったです。
加納さんはこの本を書くかどうかかなり悩まれたそうです。それでも書いたのは伝えたいことがあったから。

決して絶望しないでください、と。
過去のドラマや小説などが作りだしたイメージに、打ちのめされないで下さい。関係書籍やインターネットに表示された冷徹な数字に、決して希望を失わないで下さい。イメージはイメージ、数字は数字でしかありません。そして日々、医療は進化しています。この病気に限らず、すべての困難な病気に対して、次々と新しい治療法、新しい薬が開発されています。イメージも数字も、どんどん古いものとなっていっています。そして、素晴らしい医療スタッフが、全力で患者を救おうと尽力し、サポートしてくれてます。患者自身にもできることは山ほどあります。それを自覚して、努力するとしないでは雲泥の差、というようなことが。
情報は、闘うための力です。ですがまず、情報に押し潰されないだけの強さと冷静さを、少しずつでも育ててください。そのために、ポジティブシンキングは大切、笑うことも、楽しみを持つことも、それ以上に大切です。そしてまた、はなから諦めたり、すべてを投げ出したりしている患者を救えるほど、医療従事者は万能ではないのだと、まずは心得てください。

あとがきからの引用です。すごく心にしみました。私はまだまだ加納さんの物語が必要です。温かくてふわっとした気持ちになれる加納さんの本が好きなんです。新しい物語が紡ぎだされてたくさんの読者の元に届くのを楽しみにしているのです。だから、お願いだから病気の予後がよいものでありますように。そう祈るのみです。

*1:姉、妹、弟の4人兄弟だそう。兄弟間では25%の確率で型が一致するとのこと。非血縁者では数百〜数万分の1。両親から半分ずつ遺伝する為、通常親子間では適合しないが全くの非血縁者よりは適合の可能性は高い。