マザーズ

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高校時代からのドラッグをやめられずにいる作家のユカ、密室育児に疲れ追い詰められたその矛先を子供に向けてしまう主婦の涼子、うまくいかない結婚生活から不倫をしているモデルの五月、三者三様に育児に対峙する20代の母親たちを描いた長編小説。長く、そしてしんどい物語でした。彼女たちに共通するのは「孤独」であることです。孤独によって蝕まれていることが彼女たちを苦しめ、先を見えなくしています。子供は日々成長するし、いずれは手を離れていくものです。でも、乳幼児を育てていると中々そのイメージをはっきりとイメージするのは難しかったりします。振り返れば、日々できることが増えていっているのはわかるはずなのにトンネルを抜けた先をイメージできない。そんな状況にいてしんどくないはずがないのです。
とにかく、描写の細かさに圧倒されました。彼女たちのモノローグがえぐくてえぐくて。ここまで子供と向き合う母親の生臭いしんどさをむき出しにした物語ってあんまりなかったんじゃないのかなって思います。特に密室育児でノイローゼ気味の涼子が子供に向ける気持ちに生っぽさにぞっとしました。SOSとしてこのような形しか取ることができなかったことにも背中がゾワっとしました。彼女は子供を虐待したくて産んだわけじゃない。だけど現実の彼女は自分を制御することができなかった。この2つの間に横たわる溝をどうするのか、それこそが社会で向き合っていかなきゃいけない問題なのでしょうね。個人に問題を限定してしまうほうのが楽だけど、それじゃあきっと何も変わらないもの。
金原さんと綿矢さんは同時に芥川賞を受賞し話題になったけど、その後の歩みはそれぞれ違っていて面白いなあと思います。綿矢さんは10代の頃の自分のイメージから脱却し、そこから自由になったように感じます。一方の金原さんはどちらかといえば最初についたパブリックイメージから大きく逸脱しないような作風を続けているように感じます。最初に彼女たちの小説を読んだ時、どちらかといえば綿矢さんのほうがとらわれていて不自由に感じたんだけど、もしかしたら金原さんのほうがそういったことにこだわりがあるのかなあと思いました。意識的にか無意識的にかはわからないけれど。