リセット

リセット (双葉文庫)

リセット (双葉文庫)

出産を機に仕事を辞めて専業主婦になった知子、独身のキャリアウーマンの薫、ある事情で高校を中退してから水商売をしたりしつつ生きてきた晴美。47歳になった3人がひょんなことから再会して高校3年生にタイムスリップして人生をやり直す話。
面白かったです。ただ単にタイムスリップものってだけじゃなくてそこに女の人生すごろく的な事を加味して書かれてるのがこの本の醍醐味かと思います。男性に比べると女性は結婚するのかしないのか、出産するのかしないのか、仕事をどうするのかなどなどによって細かく枝分かれしていくものです。だからこそ、隣の芝生は青く見えるというかないものねだりにもなりがちだったり。この本の主人公たちも自分にはないものを求めてリセットした人生を歩みます。きっと次こそはもっといい人生にしてやると意気込んで頑張る彼女たち。知子は専業主婦だった自分にさよならして女優の道を選び、薫は独身キャリアウーマンから家庭を持つ道を選び、晴美はお金持ちと結婚する道を選びます。
面白いのは3人のキャラが全然違う事。そこら辺のキャラ設定がうまいなあと思いました。これがもし、知子だけ薫だけ晴美だけが主人公であったならばここまではなしの奥行きは出なかったのではないかと感じます。特に面白いなあと思うのが晴美。知子と薫は進んだ道こそ違えど今の社会構造に不満を抱いています。「女だからってなんでこうなのよ」って。彼女たちは世の中は男尊女卑であり、そのシステムのせいで自分たちは割を食っていると感じています。しかし晴美は「世の中そんなものだ」と言い放ち、「男を立てて出来ない女を演じてれば男はホイホイ喜ぶからそうやって生きるべきだ」「自分が社長だったら女なんかとるわけがない。結婚や出産で辞めてくしやれ子供が熱出たどうのってプライベートな事で振りまわさせれるのはいや」と考えるのです。最初は晴美に対して、「あーもうやだなあこの人」って思いながら読んでたんだけど、読み進むうちにちょっとずつ晴美の事がわかってきて面白いなあと感じました。知子や薫がいくら理想論を唱えようと世の中はそう劇的には変わらない。だったら今のシステムを利用して賢く生き抜くほうのがいいっていうのが晴美なんですよね。晴美本人はそこまで考えつめてないのかもしれないけれど、もしかしたらこうやってあえて乗っかって利用してしまう生き方を身につけてるという事はスマートに生きるコツだったりするのかもしれません。私の中にはなかった考え方だけど。でも自分と違うからといってそれが全くを持って間違っているわけでもないよなあと思えるあたりは、作者のうまいとこだなあとも感じます。みんなそれぞれ違うけど、それぞれのやり方で生き抜いていくのは大切なこと。
あと、タイムスリップした事によって親の見方がそれぞれに変わるというのも面白い点でした。親の苦労を思って優しく接してみようとしたり、親の矛盾点を発見してうんざりしてみたり。タイムスリップした事の意味がちゃんとそこに描かれていてなるほどーと。
小気味よく話が進んでいくし読みやすいので、長さが気にならずにサクッと読めました。どの道を選ぼうとも私は私、そう開き直って明日へと踏み出す主人公たちの姿に私も頑張ろうと思えました。後悔したりあきらめたり辛かったり色々あっても私の人生は私のものだものね。