ふがいない僕は空を見た

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

生と性は繋がっている、そういうのを生々しくも逃げずに描ききった本でした。評判がよかったので前から気になってはいたものの、中々手に取る機会がなかったのがようやく読むことができました。なんで今まで読まなかったのか、もっと早くに読むべき本でした。
5編の連作短編からなるお話なんですが、それぞれお話の主人公は違います。男子高校生に専業主婦、女子高生、助産師の母、彼らがこの物語の語り手。誰のフィルターを通すかで世界は違って見えてきます。世界は本当にままならない。ままならない中でどうにか生きていくしかない。
5編の中で最も好きなのが「セイタカアワダチソウの空」です。主人公は痴呆の症状が進んだ祖母と団地で2人暮らしをしている男子高校生福田。母は恋人の家に入り浸り気まぐれにお金を置いていくだけで生活費は福田がバイトをかけもちしてどうにかするしかない状況です。読んでて苦しいお話でした。希望の光なんていうのは福田にとっては全く意味がわからない言葉だったんでしょうね。そんな福田が胸の内にかたくかたく思いの塊を持つことができたのはよかったなあと思います。もちろんだからといって彼がこの作の人生をうまく乗り切れるわけとは限りません。たぶん状況はますます厳しくなっていくでしょう。だけど、福田が今までの人生とは違う人生を自分が望めば、努力すれば手に入れることができるのかもしれない、ここから脱出できるのかもしれないと思えたのと思えなかったのでは全然違うし、そういう未来図を描けるようになっただけの強さを彼が手に入れられたのがいいなあと思いました。弱さの中の強さ、これを見つけられた人は強い。
映画化されていると知り、キャスト見たら福田役が窪田くんとわかりナイスキャスティング!と思いました。見たい、見たすぎる。とりまキャスティングした人と握手したいです。福田ってかなりメンタル削られる役なんですよね。物語の中でのアップダウンも激しいし。そんな難しい役をどう演じたのか気になるに決まってるじゃないですか。映画、見たいなあ。