二人静

二人静

二人静

母をなくし姉が遠方に嫁いでしまった32歳独身男性が認知症を患い始めた父の介護に向き合う話。きっついなあと思いました。まず設定からしてきつい。主人公は父の介護にあたって頼りになる身内の女手がありません。日中は仕事にいっているとはいえ、親一人息子一人で向き合わなくてはいけないのは辛いなあと思います。介護をめぐる状況が色々出てくるんだけどそれがまた読んでて辛いのなんのって。きれいごとですまさず、リアリズムを入れていった文章からにじみ出る現実から思わず目をそらしたくなったぐらいでした。
そんな中、相談した結果父を施設に入所させることになるのだけど、そこで出会った介護士と主人公は交流を深めていきます。が、彼女は夫からDVを受け離婚して女手一つで娘を育てているシングルマザー。しかもその娘が場面緘黙症というこれまた大変な状況だったり。場面緘黙症というのはある特定の場面でだけ全く話せなくなってしまう現象であり、家庭ではうまく話せるのに幼稚園や学校等といった特定の状況では全く話せなくなってしまう事です。
もうね、問題が山積みなんです。きつくてたまらない。だけど不思議と読み終わったときに心に残ったのは澱んだ気持ちではなく、心地よい読後感でした。それは何故かといったら丁寧にリアルを描いていった結果だからなんじゃないのかなーと思います。だからこそ、ややもすればファンタジー的な着地に見えるものを違和感なく受け入れられたのではないかと。この重い物語をどう締めくくるのかと思ったらなんともきれいな着地で、これ以外にベストの形はないんじゃないかと思えるぐらいよかったです。
現実は早々うまくいかないだろう。でも、そこに全く希望の光がないわけじゃない。そう思わせてくれる本でした。