ニュータウンは黄昏れて

ニュータウンは黄昏れて

ニュータウンは黄昏れて

ニュータウンに住む織部家の母頼子と娘琴里を中心に描いたお話。いつもの垣谷作品とは違った経路のお話でした。これまでの「もしも小説」とは作風を変えリアルさを前面に出してきたように感じます。この小説に出てくるような人たちは今までの垣谷作品でも登場したことがあるものの、それまでの優しさを含んだ目線ではなくやや露悪的なものも感じたし。露悪的とはいっても桐野夏生にくらべればまあどうってことない程度なんですけどね。まだまだ優しい方だ。とはいえ、自らに向き合って現実と折り合いをつけて前に進もうとしない人物に対する目線は今までに比べると冷たく感じます。冷たいというか突き放してるのかなという感じ。あなたはいつまでもそこで足踏みしていればいい、ついていけなくなろうがそんなことは知らないよみたいな。
このお話には2人の主人公がいます。一人はせっかく内定を取ったものの、就職直前に会社が倒産して以来教育ローンを返すためにフリーター生活を続ける娘琴里。もう一人はニュータウンの築15年の団地を5200万円で購入したものの、住宅ローン返済に頭を悩ます母頼子。この2人を中心にニュータウンをめぐる物語が展開していきます。織部家が住む団地は老朽化問題で建て替えの話も出てきてるのだけど、これがまたうまくはいかないんです。自分一人だけで決めれることではないし、同じ団地に住んでいるからといってみなが同じ考え方のわけでもない。経済状況や家族の問題に世代の違いが深い溝を作っていきます。そして彼らは揉めるのです。揉めたいわけじゃないのにね。作中でも触れてるけど、建て替えって難しいんですよね。話が出てから20年後に建て替え完了とかもあるっていうし。建て替えがスムーズにいくならばもっとたくさんの物件が建て替えられてるに決まってるし。
お金をめぐる話も今作では色々と展開されています。琴里にはニュータウンで育った友達がいますが彼女らのお金をめぐる価値観は三者三様です。朋美のしたたかさというか自分の人生を生きるための割り切り方は嫌いじゃないです。私にその生き方ができるかといったらどうかなーと思うけど、生き抜くためにはそういう選択をするのもありかもしれません。
今までの垣谷作品と受ける印象は違ったけど、私は面白かったです。じめじめっとしたいやーな感じで終わることなく最後は希望も描かれていたし。今後はこういう方向にシフトしていくのかな。